大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成10年(ワ)559号 判決

原告

山村秀彦

右訴訟代理人弁護士

山﨑和義

熊隼人

鈴木謙

被告

株式会社コスモヒル

右代表者代表取締役

川島潤之輔

右訴訟代理人弁護士

高山征治郎

亀井美智子

中島章智

高島秀行

畑中鐵丸

石井逸郎

同(復)

楠啓太郎

同(復)

宮本督

同(復)

吉田朋

主文

一  被告は、原告に対し、一二〇〇万円及びこれに対する平成一〇年一月二九日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文第一、二項と同旨の判決及び仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

〔請求原因〕

一  被告は、ゴルフ場の経営を業とする株式会社である。

二  原告は、平成八年六月一八日、ビックアイ・ジャパン株式会社から左記の会員証を譲り受け、被告が経営するサイプレスカントリークラグ(以下「本件ゴルフクラブ」という。)に入会した。

ア 額面 一二〇〇万円

イ 会員番号 一五二号

ウ 名義人 ミサワホーム株式会社佐藤正和

エ 発行日 昭和六二年八月二〇日

三  右会員証の第1項には、会員資格保証金(以下「預託金」という。)について「発行日より一〇年間据置後退会の際は請求により返還します。」と記載されている。

四  そこで、原告は、平成九年一二月三日、会員証の発行日より一〇年間が経過したので、本件ゴルフクラブを退会する旨の意思表示及び預託金一二〇〇万円の返還を請求する旨の意思表示をした。

五  よって、原告は、被告に対し、本件預託金一二〇〇万円及びこれに対する訴状送達日の翌日である平成一〇年一月二九日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

〔請求原因に対する認否〕

請求原因一ないし四の事実は認める。

〔抗弁〕

一  抗弁一(原告の退会承認の拒絶)

本件ゴルフクラブを退会するにあたっては、本件ゴルフクラブの理事会及び被告の取締役会の承認を要するところ、本件ゴルフクラブの理事会及び被告の取締役会は、原告の退会申請を承認していない。

二  抗弁二(会員資格所得後一〇年の未経過)

1 被告が原始会員であるミサワホーム株式会社との間で締結した本件ゴルフクラブの会則(乙三の2)は、次のとおりであった。

第六条 「会員資格保証金(預託金)は正式開場後一〇年間据置き、利息は付けない。その後退会を条件として請求がある場合は、理事会及び取締役会の承認を得て本社に於いて返還するものとする。但し、天災、地変その他クラブ運営上やむを得ない事情があると認めた場合は、理事会及び取締役会の決議により返還の時期、方法を変更することができる。」

第七条 「会員資格又は預託金の譲渡を除く退会、除名及び死亡の場合は、会員資格保証金(預託金)を返還する。ただし、正式開場後一〇年間は据置くものとする。」

2 しかしながら、原告が平成八年六月に本件ゴルフクラブに入会する際の会則(乙一の2)は、次のとおり、「会員資格取得」の点で変更されていたもので、原告は変更された会則を承認して入会したものである。

第六条 「会員資格保証金(預託金)は会員資格取得後一〇年間据置き、利息は付けない。その後退会を条件として請求がある場合は、理事会及び取締役会の承認を得て本社に於いて返還するものとする。但し、天災、地変その他クラブ運営上やむを得ない事情があると認めた場合は、理事会及び取締役会の決議により返還の時期、方法を変更することがある。」

第七条 「会員資格又は預託金の譲渡を除く退会、除名及び死亡の場合は、会員資格保証金(預託金)を返還する。ただし、会員資格取得後一〇年間は据置くものとする。」

3(一) 右の会則第七条の「会員資格取得」時とは、入会申込証記載の申込者が会員資格を取得した時をいうものであるが、原告が会員資格を取得したのは、会員資格の譲渡を受けた平成八年六月一八日であり、同日から改めて一〇年間の据置期間を起算すべきである。

(二) 右(一)の主張が認められず、本件ゴルフクラブの会則が平成九年四月一五日に初めて「新たな入会より一〇年間据置き、利息は付けない」と変更されたにすぎないとしても、右1の原始会則でも、譲渡を受けて新たに入会した者は、その入会した時から一〇年間据置きと解すべきである。

三  抗弁三(正式開場後一〇年未経過)

1 原告は、昭和六二年八月二〇日付けの会員証に「発行日より一〇年据置後退会の際は請求により返還します」と記載してあることから、返還期限は昭和七二年(平成九年)八月二〇日であると主張するが、会則では、前述のとおり、正式開場後一〇年となっているところ、正式開場は、昭和六三年九月二〇日である。

2 原告は、会員証の記載内容が契約内容であるとして主張するが、ゴルフクラブの会則が会員とゴルフクラブ会社との間の権利義務の内容を構成するものであり(最高裁判所昭和六一年九月一一日第一小法廷判決・判例時報一二一四号六八頁)、会員証の記載内容が右の内容を構成するものではない。なお、本件会員証の「発行日より一〇年」との記載は、誤って記載されたものであり、単なる錯誤である。

四  抗弁四(据置期間の延長決議)

その後、本件ゴルフクラブの理事会及び被告の取締役会は、平成九年七月一日までの間に、本件ゴルフクラブの預託金の据置期間を五年間延長する旨を決議した。

1 理事会決議による決議等の手続

(一) 本件ゴルフクラブの理事会は、平成九年四月一五日、預託金の据置期間を一〇年まで延長する決議をいったん行い、さらに、同年五月一九日から同月二六日にかけて、持回りの方法により、再度決議した。

本件ゴルフクラブの理事会は、その中には、堤清二、得平文雄、その他経済界等の錚々たる人物がいるなど、被告の経営者の判断に隷従するような人物構成ではない。

(二) そして、被告の取締役会は、同年七月一日、本件ゴルフクラブの理事会の右決議を踏まえ、会員の受ける不利益を考慮して、据置期間を一〇年間ではなく五年間に限定して延長する旨の決議をした。

2 会則変更事由としての「クラブ運営上やむを得ない事情」の存在

(一) 被告が据置き期間経過後に会員から請求されるままに預託金を返還していたのでは、ゴルフ場の営業ができなくなり、会員の有する優先的施設利用権(プレー権)に対する債務履行ができなくなる。

(二) 会員は、会則中に、据置期間は決議によって延長することができる旨の規定のあることを承認して、入会している。

(三) ゴルフ場の経営等をとりまく環境が一般的に悪化し、会員権取引が激変し、その価額も暴落し、ゴルフ場の利用者及び回数が激変しており、被告のゴルフ場もその例外ではない。

3 会員の同意状況

被告は、その取締役以下の数名によって、本件ゴルフクラブの会員九〇〇名弱のうち、口頭弁論終結日である平成一〇年七月三一日現在において既に四四〇名を訪問し、その八割以上に当たる三六〇名余りから右の延長決議について同意を得ており、同意者が会員数の過半数に至るのは時間の問題である。

五  抗弁五(信義則違反・権利濫用)

仮に、原告の以上の抗弁が認められないとしても、原告が被告に対し預託金の返還を求めることは、以上に主張した事情のほか、以下のような事情に照らし、信義則に違反し、また、権利の濫用にも当たるから、許されない。

1 原告は、本件ゴルフ会員権をその額面額よりはるかに低額で購入している。

2 原告は、本件ゴルフ会員権を購入後一年半余りの短期で退会し、預託金返還請求をしており、単に利殖目的でのみ会員権を取得している。

3 被告は、原告が純粋にプレーを楽しむために本件ゴルフ会員権を取得したものと考えて、原告の入会申請を承諾した。

4 原告の請求を認容した場合に生じる原告の九〇〇万円程度の財産の増加という利益に比して、これによって被告の被る企業経営上の損害及び本件ゴルフ場の他の会員の被るゴルフプレー権の半永久的な不履行という損害は、余りに大きい。

〔抗弁に対する認否〕

一  抗弁一の事実は否認する。

二  抗弁二に対する認否

1 同二1の事実は認める。

2 同二2の事実は否認する。

3 同二3(一)(二)の事実のうち、原告が会員権の譲渡により会員資格を取得した日が平成八年六月一八日であることは認め、その余は否認ないし争う。

三  抗弁三の主張は争う。

四  抗弁四の事実に対し

1 同四1の事実は否認する。

原告は、被告から平成一〇年一月一七日になって初めて返還期限の延長決議があったことを告知されていることから考えると、被告の主張する時期にその主張のような決議があったとは思われない。

2 同四2の事実は否認する。

被告は、被告主張のような事情の変更は予見し得たはずである。

3 同四3の事実は不知。

五  抗弁五の事実は否認し、主張は争う。

理由

一  請求原因一ないし四の事実は、当事者間に争いがない。

二  抗弁一(原告の退会承認の拒絶)について

本件ゴルフクラブの会則六条には、「その後退会を条件として請求がある場合は、理事会及び取締役会の承認を得て本社に於いて、返還するものとする」との規定がある(乙三の2、一の2)が、乙三の2、一の2、並びに弁論の全趣旨によれば、本件ゴルフクラブは、いわゆる預託金会員の組織であるところ、会員の意思決定機関、特に会員総会に関する定めがなく、役員が被告の取締役会によって選任されることになっているなど、ゴルフ場を経営する被告と独立して権利義務の主体となるべき実体がなく、会員の総意を反映しない組織であることが明らかであって、仮に被告主張のように本件ゴルフクラブの理事会の承認及び被告の取締役会の承認が退会の効力発生についての停止条件、あるいは、預託金返還請求についての停止条件であるとすれば、本件ゴルフクラブの理事会及び被告の取締役会の恣意的行為によって会員の退会の自由が制限されることになり、民法一三三条の規定の趣旨に照らし、その効力を文言どおり肯認することはできない。

会員資格取得時においては、ゴルフクラブの秩序等を維持するため好ましくない者の入会を防止するうえで理事会及び取締役会の承認を要すると定めることには、合理的な理由や必要があるが、退会時においては、もはや理事会及び取締役会の承認を得ることに入会時ほどの合理的な理由も必要もない。

被告は、原告の退会を承認しない合理的理由について何ら主張立証をしておらず、本件ゴルフクラブの理事会及び被告の取締役会が原告の退会申出の承認を拒絶することはできない。

三  抗弁二(会員資格取得後一〇年間の未経過)について

1(一)  抗弁二1の事実は、当事者間に争いがない。そして、甲一、二の1及び2、乙一の1によれば、原告は、平成八年六月一八日に本件ゴルフクラブに入会したこと、右判示のとおり、原始会員であるミサワホーム株式会社が入会した当時の会則(乙三の2)によれば、預託金について「正式開場後一〇年間据置き」とされているが、その後の会則(乙一の2)によれば、本件ゴルフクラブの「正式開場後一〇年間据置き」と変更されており、そして、乙二によれば、正式開場は昭和六三年九月二〇日であることが認められる。

(二)  しかしながら、右の変更後の会則については、証拠上、その改正の経緯及び手続が不透明であり、有効な改正手続があったか否かもすこぶる疑問であり、しかも、右の会則改正の時期が原告が入会した時よりも前であったことを認めるに足りる証拠もないが、本件では、被告が十分な立証をしていないことに鑑み、念のため、右の会則改正手続が適正に、しかも、原告の入会時よりも前にされていることを前提に検討することとする。

被告は、「会員資格取得」を譲渡によって会員資格を取得した者の会員資格取得の時を当該譲渡の時と主張しているが、文言上は、いずれとも解釈し得るあいまいな文言であるといわざるを得ないうえ、債権の譲渡や契約関係の地位の譲渡は、一般に従前の権利関係をそのまま承継するもので、支払期日といった契約内容には大きな変更がないものとして譲渡され、譲渡人も譲受人もそうしたことを前提とするものである。そうした債権の譲渡や契約関係の地位の譲渡の性質に鑑みるならば、被告が譲渡によって新会員になる者に対し真実「会員資格取得時から新たに一〇年間」という契約内容を迫るのであれば、会員権価格に重大な影響を及ぼす事項であるから、周知徹底方を図るべく必要な広報活動を行うとともに、譲渡による新会員に対し入会時に必要な説明をしたうえ個別的な承諾を求めるべきである。

被告が右に述べたような手続をしたことを認めるに足りる証拠は全くないから、債権の譲渡又は契約関係の地位の譲渡の有する本来的な性質に従い、「会員資格取得時」は原始会員が入会した時であると解すべきである。

(三)  仮に、これを被告のように解するときは、会員権の譲渡は、譲受人が換金するためには譲渡を受けた時からさらに一〇年間を経過することを要することになり、会員権の価額が預託金額を下回る場合には、会員権の譲渡性・流通性を著しく低下させ、ひいては、会員が会員権の換価を図るために、譲渡を選択せずに、預託金の早期返還請求という被告が意図するところと全く正反対の結果を招来しかねないものである。

2  仮に、本件ゴルフクラブの右の会則改正が平成九年四月一五日に「新たな入会より一〇年間据置き、利息は付けない」と変更されている(甲九)としたら、原告の本件会員権の譲受よりも後の会則改正であるから、その会則改正は、原告の本件預託金返還請求の行使に何ら消長を来すものではない。

四  抗弁三(正式開場後一〇年間の未経過)について

ゴルフクラブの入会契約の内容は、一般の契約と同様に、会則、会員証の記載、その他の書面又は口頭によって合意又は変更することができ、特に会則が優先するものではない。被告は、前掲の最高裁判所の判例を引用して、会則こそがゴルフクラブを経営する会社と会員との権利義務の内容を構成すると主張するが、右の判例は、会則の約定内容と会員証記載の約定内容とが矛盾した場合のものではなく、被告の主張は、右判例の誤解に基づくものであって、採用することができない。

本件では、ゴルフクラブの原始会則(乙三の2)の記載内容「正式開場後一〇年間の据置期間」と原始会員であるミサワホーム株式会社に交付された会員証(甲一)の記載内容「会員証発行後一〇年間の据置期間」とが異なっているが、ゴルフクラブの会則が先行している場合には、会員証の記載及びその交付によって、ミサワホーム株式会社との間で、会員証の記載内容どおりに変更になったものというべく、会員証の交付が先行している場合には、会則の改正は、ミサワホーム株式会社又は原告に対する関係では、その個別的な承諾がない以上、その効力はないものというべきである。

したがって、被告の抗弁三(正式開場後一〇年間の未経過)も採用することができない。

五  抗弁四(据置期間の延長決議)について

1  据置期間の延長決議について

乙一の2、五ないし八、並びに弁論の全趣旨によれば、本件ゴルフクラブの理事会及び被告の取締役会は、平成九年七月一日までの間に、会則第六条に基づいて、「クラブ運営上やむを得ない事情」があるものとして、本件ゴルフクラブの預託金の据置期間を五年間延長する旨を決議したことが認められる。

被告は、本件ゴルフクラブの理事会は、その中に経済界等の錚々たる人物がいるなど、被告の取締役会とは独立した実体を有する組織であるかのごとく主張するが、前記判示のように、本件ゴルフクラブは、いわゆる預託金会員の組織であり、会員の意思決定機関、特に会員総会に関する定めがなく、本件ゴルフクラブの役員が被告の取締役会によって選任されることになっているなど、組織として民主的な運営がされる仕組みになっておらず、ゴルフ場を経営する被告と独立して権利義務の主体となるべき実体がなく、会員意思の反映しない組織であることが明らかである。

したがって、会則の改正は、本件ゴルフクラブの定款的な性質のある規則の改正ではなく、契約中の改正条項に基づく契約内容の変更と理解すべきものである。

2  「クラブ運営上やむを得ない事情」の存否について

そこで、会則第六条の定める「クラブ運営上やむを得ない事情」があったか否かについて、検討することとする。

この点について、被告は、種々の事情を主張し、そのいずれの事情も公知の事実か又はそれから推知し得る事情であるが、要するに、経済変動から生じた被告の財務状態及び営業成績の悪化によって、退会した会員からの預託金の返還請求に応じることができないというにすぎず、クラブ運営上やむを得ない事情があったということはできない。

3  会員の同意状況について

被告は、被告の取締役以下の数名が本件ゴルフクラブの全会員九〇〇名弱のうち、既に四四〇名を訪問し、その八割以上に当たる三六〇名余りから据置期間延長の決議に対する同意を得ており、同意者が会員数の過半数に至るのは時間の問題であると主張するが、原告から退会通告のうえ預託金の返還請求を受け、預託金返還請求が支払期日を迎えた後に、据置期間延長という会則改正について、過半数の会員から同意を得たとしても、原告に対する関係では何らその効力はないものというべきであり、ましてや、本件口頭弁論終結の日までに同意者が過半数に達していないというのであるから、右2の判断を再考する材料にもすることができない。

六  抗弁五(信義則違反・権利濫用)について

被告は、原告の預託金請求が信義則違反又は権利濫用として許されないと主張するので、以下、右主張について判断する。

原告が本件ゴルフ会員権をその額面額よりはるかに低額で購入しているとしても、ゴルフクラブを経営する被告会社としても、むしろ、ゴルフ会員権は譲渡されるものであり、そのことによって預託金返還請求権の行使はされないと考えていたものであって、預託金額よりも低額で譲り受けた者の預託金返還請求を信義則違反又は権利濫用として排斥すべき点は何ら見い出すことができない。

また、被告は、被告としては、原告がプレーをするために本件ゴルフ会員権を取得したものと考えて、原告の入会申請を承諾したのに、原告が本件ゴルフ会員権を購入後一年半余りの短期で退会して預託金返還請求をしており、原告は単に利殖目的でのみ会員権を取得していると主張するが、右のような事情はそれ自体として何ら反社会性はなく、信義則違反又は権利濫用を肯認すべき事由を構成するものではない。

また、被告は、原告の九〇〇万円程度の財産の増加という利益に比して、被告の被る企業経営上の損害及び他の会員の被るプレー権の喪失という損害は、余りに大きいと主張するが、本件訴訟は、原告がその主張のような預託金返還請求権が履行期にあるか否かであり、原告が本件訴訟で勝訴しても、客観的に見るならば、一二〇〇万円ないし九〇〇万円の債権を容易に実現できるとは考えられず、むしろ、その一部についてでも実現は極めて困難であり、その意味では、原告の本訴の提起はそれほど有効性はあるいは高くないかもしれないが、原告としては、これが有効であると信じて本訴を提起しているのであり、原告のそうした権利行使が信義則違反又は権利濫用に当たるということはできない。

したがって、被告の信義則違反又は権利濫用の抗弁もまた採用することができない。

七  以上によれば、原告の請求は理由がある。

なお、仮執行宣言については、被告が権利濫用として主張している事情等に照らし、原告が仮執行の宣言に基づいてその債権の先駆け的な実現を図ろうとすることは、無用な混乱を招来しかねないことを考慮すると、仮執行の宣言を付することは相当ではないので、仮執行の宣言の申立ては却下することとする。

(裁判官塚原朋一)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例